ザ・マン・インスティテュート

<The Mann Institute> モートン・イン・マーシュに、ロンドン/オックスフォード方面から車で訪れると、町の中心に近づくにつれ、いくつかの歴史的建造物が目に入る。ザ・マン・インスティテュートもその一つである。

The Mann Institute

1891年に労働者のクラブ(社交場・教育施設)として設立されたもので、当初は集会ホール、読書室、ビリヤード室などが入っていた。2階から上の部分は、夏の間、恵まれない女性のための宿泊施設として慈善団体が使用していたという。

ザ・マン・インスティテュートの名称は、マン(Mann)家に由来する。この建物を建てたエディス・マン(Edith Mann)という女性は、医師ジョン・マン(John Mann)の娘であり、また会衆派(プロテスタントの一派)の牧師だった同名のジョン・マンの孫娘でもあった。父ジョンの生家を、おそらくは全面改築し、労働者のための公共施設にしたものが今も残っているというわけだ。現在は、ある建築事務所のオフィスになっている。

町のシンボル的な建物の一つであるが、私が特に気に入っているのは、幹線道路に面した南壁の大きな扉の上部に刻まれている一つの文である。

南側の壁。中央にJohn Mannの飾り板、左端の白い扉の上にRuskinの一文を記した石板がはめこまれている。
医師 John Mannを記念する飾り板 
“EVERY NOBLE LIFE LEAVES THE FIBRE OF IT INTERWOVEN FOR EVER IN THE WORK OF THE WORLD
RUSKIN”

これは、19世紀の美術評論家・社会思想家、ジョン・ラスキン(John Ruskin, 1819-1900)が著した植物に関する本の中に出てくる一文である。日本語に訳せば、「あらゆる尊い命が、微小な繊維を残しながら、この世界に永々と紡ぎ込まれていく」というような意味である。

この石板が、この建物に最初からはめ込まれていたのかどうかは分からない。しかしもしもそうだとすれば、労働者クラブを訪れた男たちがきっと目にしていただろうし、不遇の女たちも、夏のひと時をここで過ごしながら、この一文を見上げることもあっただろう。彼ら・彼女らは文字が読めなかったかもしれないが、誰かが代わりに読み上げるのを聞き、ふと心を揺さぶられた人もいたのではないかと思う。

参考資料:
Mark Turner, Moreton-In-Marsh through Time (Stroud, Gloucestershire: Amberley Publishing, 2018)

John Ruskin, PROSERPINA. Studies of Wayside Flowers, While the Air was Yet Pure Among the Alps, and in the Scotland and England Which My Father Knew, Volume 1 (New York: John Wiley & Sons, 1888)