<Dover’s Hill> うちから車で20分ほどの場所に、ドーバーズ・ヒルと呼ばれる丘がある。現在、ナショナル・トラストが管理しているが、ビジター用の設備などはなく、駐車場も入場も無料。入場時間は「Dawn to dusk(夜明けから日没まで)」とのことだが、無人のゲートはいつでも自由に出入りできる。
眺めがよいので時々散歩しに来る場所だが、今日は日中も氷点下のまま。風が強く、弱々しい日差しもすぐに陰ってしまった。1時間も歩くと体が凍りそうになってきたので、駆け足で車に戻った。
今日のような日は荒涼たる草地にしか見えず、人影もまばらだが、実はここ、夏はオリンピックが開かれる場所なのだ。もちろんIOC主催の五輪とは無関係だが、歴史的に見ればこちらの方が由緒正しいと言えなくもない。
今から400年以上前、古代ギリシャのオリンピック競技会が途絶えてから1200年以上経った1612年に、新たなオリンピックが初めてこの丘で開かれた。組織したのはロバート・ドーバー(Robert Dover)という法律家で、古代オリンピックに着想を得て、地元の伝統的な祭りを青年たちが健全に楽しめる運動競技会へと改編したのである。(そう聞くと、「伝統的な祭り」というのが大体どのようなものだったのか、想像できるというものだ。)ドーバーズ・ヒルの名前は彼に由来する。
ドーバーのオリンピックには国王ジェームズ1世や豪商たちの後援がつき、毎年盛大に催された。数ある競技の中でも目玉は「脛蹴り」。2人の競技者が足のスネを蹴り合う。そのほか、綱引き、競走、競馬、そしてダンスや吟唱や仮面劇なども行われた。賑わいの様子は、ここから15キロ北にあるストラットフォード・アポン・エイボンの町にも伝わり、シェークスピアの関心を引いたという。
このオリンピックは、その後、内戦(1642~51年)や、折々の財政難、戦争、家畜の伝染病などのさまざまな理由で中断されながらも、連綿と続けられ、1960年代に地元民の熱意により現代的なイベントとして復活した。現在は「コッツウォルズ・オリンピック」としてほぼ毎年開催されている。昨夏も開かれたが、今年はコロナのために中止。しかし来年は410周年記念の特別大会として6月3日(金)に開催予定だそうだ。