<Post-Brexit: From Today’s News> コッツウォルズでロックダウン生活を送っている限りでは、ブレグジットの直接的な影響を感じることはほとんどない(少なくとも現時点では)。しかし、だからといって何事もなく進んでいるわけではもちろんない。半世紀近く続いた政治経済体制が、まったく別の、ある意味で未知のものに移行したのだから、影響は無数の領域に及んでいるはずである。コロナがなければきっと、日々のメディアはブレグジット関連の記事で埋まっていただろう。反対派のデモや抗議活動もいろいろな場所で起きていたかもしれない。
幸か不幸か、人々の差し迫った関心はコロナに向いていると言えるが、それでも、例えば今日のタイムズ紙の記事(”Britain’s new relationship with the EU comes with catches and strings“)によれば、少なくとも次のような混乱や不都合が顕在化している。
- イギリスに品物を運ぶEUのトラック輸送業者が新たな通関規則への対応に苦慮しており、輸入コストが増大している(例えばドイツから陸海輸入する貨物は昨年第3四半期と比べて26%割高)。
- EUの食品安全規則の手続きに阻まれ大量の魚介類が通関できなくなっている。漁業への打撃は大きく、政府が急遽準備した2,300万ポンドの支援も不十分。
- 食肉等の生鮮食品も複雑な手続きに阻まれ、通関できず腐敗。
- EUの単一市場に暫定的に残った北アイルランドでは、グレートブリテン島からの物品の流通が滞り、スーパー各社で品不足が発生。
- EU加盟国からインターネットで品物を購入する場合、イギリスの付加価値税(VAT)がかかるが、手続きの混乱で消費者と配送業者の負担が増している。
- EUの原産地規則にもとづき、純イギリス産ではないアパレル製品や食品が関税割当の対象となったため、多くの企業がEU向けの販売を停止している。
- 移動の自由を失い、EU内で活動しづらくなったミュージシャンらが抗議。
上記は主に消費財の物流にかかわる話だが、当然ながら問題はそれだけではない。例えば、さまざまなサービス業の取引についての規定がどうなるのか、大部分がまだ不透明である。昨年12月24日、期限切れ間近の土壇場で結ばれた自由貿易協定にサービス業は含まれていないからで、多くのことが今後の交渉にかかっているという。文化・芸術や、研究・教育分野での協力関係もいろいろ決まっていない。さらには治安、防衛、外交に関しても、イギリスとEUの間でどのような取り決めが実現していくのか、よく分からないままである。
そしてそもそも、イギリスという国家そのものの内部が不安定化している。その行方次第で、対EU関係もまた改めて大きく変わらざるを得ないだろう。タイムズ紙の記事では北アイルランドの品不足が取り上げられているが、北アイルランドの問題は、スーパーの棚が空っぽになったかどうかの話ではとても済まない複雑な面をもつ。それについては、改めて書いていこうと思う。