<The National Trust> 去年の8月、ナショナル・トラストの内部文書である10年間の運営計画がリークされた。それによれば、同団体は、歴史的建造物よりも屋外の娯楽活動にサービスの重心を移していく予定だという。
ナショナル・トラストは正式名称を「歴史的名所と自然景勝地のためのナショナル・トラスト」と言い、自然の魅力を伝えるのも目的の一つにしている(ドーバーズ・ヒルもその一つ)。しかし一番の「売り」は、ビジターが昔の貴族の城館や富豪の邸宅を訪れて中を見学し、かつての時代の雰囲気を体験できることではないかと思うが、それを徐々に縮小していこうというのだ。代わって、ウォーキングや、アウトドアスポーツの場を広げ、建物内部を開放する場合でもパーティ等のイベント向けにすることなどを提案している。(”National Trust to focus on outdoors and hold fewer exhibitions in properties, ten-year strategy reveals“)
なぜこのようなことになったのか。大きな理由は財政難である。コロナで観光産業全体が打撃を受け、ナショナル・トラストも例外ではなく、事業継続のために新しいアイデアが必要なのだろう。それは理解できる。
しかしなぜ、せっかくの歴史的遺産ではなく、アウトドアなのか。人はスポーツをしたくてナショナル・トラストの施設を訪れるのではないだろうに。
実は、アウトドアや、その他「歴史」と無関係なイベントで客を呼び込もうとする姿勢は、しばらく前からのものらしい。リークされた文書にもあるとおり、「時代遅れの邸宅見物は、根強いファンはいるが、魅力が薄れてきている」というのが現在のナショナル・トラストの見解である。そのため、伝統的なイタリア風庭園に子供向けの遊具を設置したり、古の家具調度をどけてプラスチックのクッションを床に置いたりといった「工夫」を行っているのだ。
単なるレジャー産業なら、このような試みも問題ないかもしれない。しかしナショナル・トラストは、全国550万人という莫大な数の会員からの会費を主な収入源とし、歴史的遺産の保護・継承を使命としている公共的な団体である。会員は、その使命に賛同してナショナル・トラストに会費を払うのであり、歴史や伝統に触れたくてナショナル・トラストの施設を訪れるのである。実際、方針の転換に対して会員からの批判は強まっているようで、「一般市民は歴史よりもウォーキングに興味があると見くびっているのか」といった不満の声も出ている。内部文書のリークの後、世間の非難を受けたナショナル・トラストは、これまでのようなビジターサービスも引き続き重視していくと慌てて声明を出した。(”National Trust denies dumbing down in drive for ‘new audiences’“)
しかし、ナショナル・トラストの方針転換には別の意図も働いていると、多くの人が疑っている。それが歴史の修正の問題である。