スコットランドはどうなるのか

<What Will Happen to Scotland?> 昨日1月25日はスコットランドの国民的詩人、ロバート・バーンズの生誕日だった。毎年、これを祝うバーンズナイトが催され、スコットランドほど盛大ではないものの、イングランドでもハギス(haggis—羊の臓物の腸詰め)を食べたり、スコッチウイスキーを飲んだりして、なんとなく彼の国に思いを馳せる日となっている。我が家も昨日の夕ご飯は、ハギスと、ニープス&タティー(neeps & tatties—カブの一種のスウィードとジャガイモで作る付け合わせ)だった。味がしっかりしていて体も温まる、栄養満点のスコットランド料理である。

しかし現在、スコットランド情勢は穏やかでない。長年分離主義を掲げてきたスコットランドで、独立を支持する意見がいっそう強まっている。スコットランド国民党党首でスコットランド自治政府首相のニコラ・スタージョンが、独立を問うスコットランド住民投票を再度実施すると宣言している。

先週土曜日のタイムズ紙では、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドのそれぞれで実施された最近の世論調査の結果が報じられた(”Union in crisis as polls reveal voters want referendum on Scottish independence and united Irelan“)。調査の質問は多角的で、北アイルランドの結果も含め、見逃せないポイントがいくつも浮かび上がったが、ここではスコットランドに話をしぼってみたい。

調査によれば、スコットランド住民の間で、スコットランド独立に対する支持は49%で、反対は44%だった。また今後5年間の住民投票の実施については、支持が50%、反対が43%であり、今後10年以内にスコットランドが独立する可能性については、「可能性あり」が49%、「なし」が30%となった。つまり全体として、スコットランド住民のほぼ半数が、スコットランド独立を支持し、そのために5年以内の住民投票実施を支持し、10年以内に独立する可能性があると考えていることになる。独立反対派もそれなりに多いが、独立する可能性について「なし」派は「あり」派よりもぐっと少なく、反対派でもかなりの割合が独立という将来を予想している様子がうかがえる。

よく言われるように、スコットランド独立論の高まりは、ブレグジットの後遺症の一つである。スコットランドではEU残留派の方が強かったため、イングランド主導で無理やり離脱させられたとの不満が強い。EU離脱を焦点とした2016年国民投票に先立つ2014年に、スコットランド独立を問うスコットランド住民投票が実施されたが、その時は連合王国残留派が55%以上という明白な結果が出た。ロンドンのイギリス政府は、「一世代で一度限り」の了解のもとに実施したこの2014年住民投票の結果を重視して、スコットランド問題は(少なくとも当面は)決着がついたとの立場をとっており、近い将来に再度住民投票を実施することはないとジョンソン首相も明言している。しかし独立支持派に言わせれば、ブレグジットで連合王国の基本的前提が変わり、しかもそれはスコットランド人の意思を無視して強行されたのだから、住民投票を改めて行うのは正当だということになる。

今年5月に予定されているスコットランド自治議会選挙では、スコットランド国民党が議席を伸ばし、全129議席中70議席をとると予想されている。スタージョン首相は、国民党が勝利すれば、それはスコットランド人が住民投票の再実施を支持したことを意味すると述べた。住民投票は中央政府の承認がなければ非合法だが、国民党は、承認のあるなしにかかわらずこれを決行する姿勢である。山猫ストならぬ山猫レファレンダムである。

スコットランド国民党がこれほど勢力を伸ばし、これほど強気なのは、ブレグジットのほかにもいろいろ理由がある。一つは党首スタージョンの人気である。スコットランド・ナショナリズムを奉じる叩き上げの政治家であり、比較的若く(50歳)、フェミニストとしても知られる女性であることが、若い世代を中心にアピールする要因となっている。前党首・首相のアレックス・サーモンドがいかにも「おっさん」だったのとは大きく違う(実際にサーモンドは住民投票の敗北で首相を辞めた後、セクハラ・強姦容疑のスキャンダルでイメージが失墜した)。独立スコットランドが、小さくとも環境や人権に配慮し、公正で、平和で、進歩的な国になるというビジョンを、スタージョンは体現していると言われる。

しかも敵がボリス・ジョンソンである。ジョンソンはスコットランドだけでなくイギリス全体で概して嫌われ者で、彼をおおっぴらに褒めるコメントは保守党内部からもあまり出てこない。一般人の間では、EU残留派にとっては言わずもがな、離脱派ですら「ボリスは人間的には嫌いだけれど」と前置きしない限り、良いことの一つも言えないような政治家である。(もっとも私自身は、好きでも嫌いでもなく、あまりに世間の点が辛いので、もう少し評価できるところも見てバランスをとる必要があるだろうと考えている。確かに政策の一貫性に欠けるところがあるかもしれないが、民意を読めない政治家では困るし、教条的であるよりはよほどいい。伝えられるところの私生活上のだらしなさも、政治家として力量があるならどうでもいいことだ。そして何よりも、あらゆる方面から絶対に無理だと言われてきた協定付きのEU離脱をまがりなりにも実現したことは、もっと重視されるべきだと思う。)ともあれ、「嘘つきで信用ならない傲慢なジョンソン」vs「スコットランドの正義のために戦うスタージョン」という対決的な図式が、左派メディアを中心に出来上がってしまっている。スコットランド国民党は有権者に「ニコラか、ボリスか」と迫るイメージ戦を展開するだろう。

しかしもちろん、問題はパーソナリティの違いだけではない。スコットランド国民党の伸長の背景には、労働党の凋落がある。スコットランドでは伝統的に労働党を支持してきた層が国民党支持へと大きく流れてしまった。そして労働党の凋落はイギリス全体の現象であり、この点を合わせて見ない限りスコットランドの事情もよく理解できないままになると思う。長くなったので続きはまた。